「……僕が時花さんを名前呼びに変えてから、どこか(うわ)の空ではありませんか?」

 店長が冷ややかな笑みを顔面に描いては、時花の肩をポンと叩いた。

 時花は店長の凍て付くような冷笑――目は笑っていない――を見た途端、ようやく現実に立ち戻った。

(あ、まずいですね……ついはしゃぎ過ぎました……)

 冷や汗を流す時花に、店長は抑揚のない一本調子な声音で通告する。

「呼び方を苗字に戻した方が良いですか?」

「ひゃああああっごめんなさい済みませんでした死ぬ気で頑張ります馬車馬のように働きます何でもします奴隷になります後生ですから名前で呼んで下さい~っ!」

 土下座しかねない勢いで平謝りした。

 肩を掴まれていたので、実際にひれ伏すことは出来なかったにせよ、時花は今にも泣き出しそうな形相だ。

 せっかく名前で呼ばれるようになったのに、帳消しにはされたくない。

「しかしですねぇ」意地悪そうに口角を吊り上げる店長。「仕事の能率に響きますし」

「はわわわわ、今後は戒めます、自粛しますのでお許し下さいませっ」