1.
「時花さん、店の掃除をお願いします」
「えへへへへ~」
「時花さん、精算書の提出は今日中に頼みますよ」
「んふふふふ……」
「時花さん、品出しの陳列で転ばないよう気を付けて下さいね」
「にゃはははは」
「時花さん」
「おほほおお~」
愛しの店長に名前で呼ばれるたび、時花は顔がゆるんでしまう。
業務に身が入らない。心がたるむ。接客作法も、礼儀も、職務規定さえも真っ白に吹っ飛ぶとなれば、もはや従業員として成立するのかも危うかった。
年末の商店街は、クリスマスの浮かれ具合を引きずったまま新年を迎えつつある。
客商売に連休はない。商店街も正月休みを取らない方針が是とされていた。時花の勤める古物時計店『時ほぐし』もその一員として、年末年始も営業する予定だ。
「時花さん、手がお留守になっていますよ?」