驚き過ぎである。そこまでショックを受けるなよ、と誰もが義憤にかられた。本当に救いようのない男だ。

「あとはお客様どうしでじっくり対話して下さい。店の外で」

 店長が女性客の背中を押した。

 ついでに青年客の背中も押し戻した。

 ドアの外へ追い出してから、ごきげんようと手を振り、会釈する。

 またのご来店をお待ちしております、とは口が裂けても言わなかった。

 きっともう、この二人は来ないに違いない。嫌な思い出になっただろうから。

「これで良かったんですか、店長?」

 時花はラップトップ・パソコンを事務室に戻してから、店長へ問いかけた。

 フロアから店外の様子を監視していた店長は、男女二人が言い争いながら立ち去るのを見届けてから、時花にくるりと反転する。

 目が合うと、フッと一笑に付してみせた。

「お得意様を失ってしまいましたが、悔いはありませんよ」

「なら良いんですけど……」

「第一、誰かを騙して購入する腕時計なんて腹立たしいだけですし、何より腕時計が可哀相です。今まで彼に搾取された商品のことを考えるだけで、胸が張り裂けそうです」