青年客はへらへらと薄ら笑いしながら、数々の女性からせしめたブランド物のスーツだのアクセサリだので身を固めている。

「――……って、あれ?」

 そして勇ましく踏み込んだまま、凍り付いた。

 時花の蔑視、店長の冷笑、そして偽物ヴィトンを着た女性客のゴミを見るような眼光。

 それらを一身に浴びた青年客は、今さら事態を把握した。

「えーと、もしかして俺、やらかしちゃった状況?」

「恐れ入りますが、飛んで火に入る夏の虫でございます」

 店長が失笑した。

 心の中では窃笑(せっしょう)しているに違いない。

 時花も呆れて言葉を失いかけた。腰に手を当て、かぶりを振って、蛇蝎のごとく青年客を軽蔑してから、どうにか言い放つ。

「おおかた、私のことを古物時計店に勤めるハイソな令嬢だと見込んだんでしょうけど、このスーツはお店からの貸与ですし、私は数ヶ月間ニートだったので貯蓄もありませんからねっ」

「な、何だってぇ!?」

 青年客が絶望のあまり天を仰いだ。