古物時計店の『時ほぐし』


「しかし……」

 時花は応じかねた。

 女性客について思う所があるし、店長にも引き止められたからだ。時花の横からヌッと身を乗り出した店長は、堂々とした足取りで女性客に歩み寄った。

 表情こそ営業スマイルで満ちているものの、全身から沸き立つオーラが接客のそれではない。どこか鬼気迫る、咎めるような物腰だった。

 紳士にあるまじき異様――。

「お客様。お買い上げになられる前に一つ、報告がございます」

「は? 何よ」

「当店の従業員が、お客様のお連れとおぼしき青年から、執拗にメールで誘惑されるという事態が起こりまして」

「…………はぁ?」

 女性客が顎を外しそうになった。

 どうやら知らなかったらしい。無理もない。青年客の手癖の悪さなど、あのルックスからは想像も付くまい。

「お客様は、あの青年にかつがれているだけです。お客様の購買意欲を妨げるのは大変心苦しいのでございますが、お売りするのは控えさせていただきます」