♢ ♢ ♢

「っ!」
 
聞き覚えのある声が耳に届き、私は慌てて目を開いた。

「……ここ」
 
真っ先に目に飛び込んできたのは、部屋の天井に付いている豆電球だった。

豆電球は元気よく光を放っている。それを見つめた私は少し安堵した。

強く頭を打ったわけでもなく、意識もちゃんとはっきりしている事が分かり軽く息を吐く。

まさか豆電球を見て安堵する日が来るとは。そんな事を思いながら体を起き上がらせる。

部屋の中を見渡しながら、どれくらい意識を失っていたのだろうかと思う。
 
部屋の中は特に変わった様子もなく、さっきと同じ光景が広がっていた。直ぐ目の前には真っ白な机が置かれており、その上には黒電話が置かれて――

「……ない?!」
 
しかしそこには、さっきまであったはずの黒電話の姿がなかった。
 

私は両手で目を擦って机に視線を戻す。しかしやっぱり机の上に黒電話の姿はない。
 
もしかして夢でも見ていたのだろうか? そう思った私は自分の頬を力強く引っ張ってみる。

「いででっ!」
 
思いきり引っ張りすぎたせいで、頬がジンジンと痛み始める。

この痛みをはっきりと感じ取れるという事は、夢ではないという事になってしまう。夢じゃないとしたら黒電話はどこに消えたというのだろう?