そこには亡くなったはずのお母さんが立っていた。

過去で見てきたお母さんと違って少し老けて見えるけど、今そこに居るのは紛れもない私のお母さんだった。

(もしかして……未来が変わった?)
 
心臓が大きく脈を打つようにドクドクと音を鳴らしている。

「彩芽ちゃん? どうしたの? 泣きそうな顔をして?」

「……お母さん」
 
ゆっくりと足を一歩踏み出し私はお母さんに抱き着いた。

背中に腕を回しその存在を確かめるようにお母さんの温もりを求めた。

「良かった……お母さん!」

「もう……どうしたの? 彩芽ちゃん」
 
お母さんは優しく私に髪を撫でてくれた。それが凄く温かくて目に涙が溢れた。

「結、見てみろよ」
 
お父さんはそう言うとアルバムをお母さんに渡した。

「……まあ、懐かしいわね」
 
お母さんから離れた私は一緒にアルバムを覗き込んだ。

「あの時は辛かったけど諦めなくて良かった」
 
小さく呟いたお母さんの言葉を聞いて、私はそっとお母さんに寄り添った。
 
あの時じぃじは言った。【お前さんのおかげで結さんには生きる為の希望が見えたのじゃ】と。

だからお母さんはここに居るのだ。

【最初で最後の最高のプレゼントが、君の元に――】
 
そんな言葉が微かに聞こえ、私は黒電話のある部屋に目を向けた。

「アルバムは後でゆっくり見るとしておいて、まずは片付けからだな」

「そうね」
 
お父さんの言葉に頷いた私は窓から見える青空を見上げたのだ。
 
平成最後の夏に起きたあの出来事を私はこの先ずっと忘れる事はないだろう。

もちろん話す相手は居ないけど、この思い出はずっと私の中に残っているのだ。

短い間だったけど、小さな私とあの時代で過ごした家族の事を……私は絶対に忘れない。








                             追憶のダイヤル END