「置く前にお前さんが来てしまったから、正直初めてみた時驚いたわい」
 
そう言ったじぃじは声を上げて笑った。

「それで……私が未来から来た孫だって知っていて、知らないフリをしたと?」

「その通りじゃ。最初は成功すると思ってなかったからのう。お前さんを見た時は嬉しかったよ」
 
じぃじはそっと私の手を取ると、優しく手の甲を擦ってくれた。

「あのアヤちゃんが……こんなべっぴんさんに育つんじゃ。儂は未来が楽しみじゃよ」

「じぃじ……」
 
そうだ……。この時代でじぃじと話せるのはこれが最後なんだ。もうじぃじに会う事は出来ないのだ。
 
私は唇を軽くかんで言う。

「じぃじ……女の子って大きくなると難しいお年頃になるから、反抗的な事を言っても……ひどい事を言っても……」
 
私は涙を堪え震える体を落ち着かせながら言う。

「私がじぃじの事……大好きだって事には変わらないから」

「……うん。大丈夫じゃよ、アヤちゃん」
 
じぃじは二度頷き私の手を離すと、黒電話を私の両手の上に置いた。

「さあ……そろそろ帰る時間じゃよ」

「……じぃじ」
 
じぃじに促されるまま鍵を受け取り私はあの扉の前に立つ。
 
これでようやく帰る事が出来るんだ。

お父さんが待っている未来に……。涙を拭いた私は最後にじぃじの方を振り返る。そして微笑んで言う。

「じぃじ……ありがとう」

「……」
 
じぃじは何も言わずただ笑っただけだった。
 
扉に向き直った私は鍵を差し込み扉を開ける。部屋の中に足を踏み入れ、じぃじの方を振り返らずに扉を閉めた。

「……はあ」
 
大きく息を吸って吐く。

前を見据えて机に近寄りその上に黒電話を置く。受話器を持って机の上に置かれている紙を見下ろす。
 
ダイヤルを回しながら受話器を耳に当て目を閉じる。

「これで……帰れる」
 
どこかに繋がた瞬間、私の意識は途絶えた。