「……あんな扉あったっけ?」

真っ白なその扉には凝った細工は施されておらず、ただそこにポツンとあるだけだった。

しかしこの部屋の中にあるどの物よりも、私はその扉に目を奪われ、何かに惹き寄せられる感がした。

「あっ、もしかして」
 
さっきお父さんから受け取った鍵を見下ろす。

この部屋の鍵と一緒に付いている真っ白な鍵を持って、私はその扉に近づいた。

「この部屋の鍵で良いんだよね?」

ほんの興味本位で鍵を差し込み開ける。開いた事を確認した私は、ドアノブに手を置きゆっくりと扉を前に押す。

鈍い音を立てながら扉は開いていき、私は部屋の中に足を踏み入れた。

「あれ?」

しかし部屋の中には特にこれといった物は置かれていなかった。

窓一つない部屋で天井には豆電球が付いており、今にも消えそうに光を放っている。部屋の真ん中には真っ白な机の上にぽつんと黒電話が置かれていた。

「黒電話?」
 
何でこんなところに? と思いながら黒電話が置かれた机に近づく。

黒電話なんて今の時代で使っている家はほとんどないだろう。

今はスマホ一台あれば直ぐに誰とでも連絡が取れる時代だ。だからなのか私は少し気になって黒電話の周りを見渡す。
 
どこかに繋がっているわけでもなく、ただそこに置かれているだけの黒電話の横に折り畳まれた紙を見つけた。

「手紙?」
 
丁寧に折り畳まれた紙を手に取り開いてみる。そこにはある電話番号とメッセージが一言書き残されていた。そしてそのメッセージは私宛の物だった。