未来を変えない為には、ここで何も言わない事が最善なのだろう。

私が何も言わなければ、未来に向かってこのままの出来事で進んで行く。

治療を途中でやめたお母さんは、一年も経たないうちに亡くなってしまう。それが本当の未来なのだ。

「本当は……治療は続けて行きたいんです」

「っ! だったら」

「でも……もう希望が見えないんです!」
 
布団の上に一粒の涙が落ちた時、お母さんが泣いている事に気がついた。

「こんな歳で癌になってしまって、まだ彩芽ちゃんだって小さいのに……」
 
お母さんは自分の体を包み込むように腕を回す。

「こうしている間にも……癌の進行は進んでいます。治療を続けたって回復の見込みが見えないんじゃ、続けたって無意味です。こんな姿……彩芽ちゃんには見せたくありません。お母さんが帰って来るって信じてるあの子に、辛い思いをさせたくありませんから」
 
ポロポロと涙を流すお母さんの姿を見て、私に何が言えるだろうかと思った。

半年間治療を続けた結果、癌は骨にまで転移してしまった。その事を知らされた時お母さんは
絶望に叩き落とされただろう。

完治すると思って治療を続けてきたのに、良くなっていると思っていたのに、癌は良くなるどころか悪化してしまったのだ。

「……っ」
 
最初は小さな私の代わりに思っている事を伝えるつもりだった。

でもお母さんのこんな状況を知って、私が何か言ったところでそんなもの、ただの気休め程度にしかならないのかもしれない。