過去に来て数日が経つけど、未だに黒電話の在り処は分かっていない。それどころか姿すら見えない。このまま黒電話が見つからなかったら、私は一体どうなるのだろう? 

未来で私を探しているお父さんを一人残して、このままこの時代で生きて行く事になるのだろうか?
 
呆然と立ち尽くしていると、いつの間にか目に前に来ていたお母さんが、そっと私の体を抱き
しめてくれた。

「おか……結さん?」
 
お母さんは優しく髪を撫でてくれている。それがとても温かく感じ取れて、涙が溢れそうにな
るのをぐっと堪えた。

ここで泣くわけにはいかない。泣いてしまったら、お母さんに迷惑をかけてしまうから。

「なぜかしらね……」

「えっ?」
 
顔を上げてお母さんの顔を見ると、目に涙が浮かんでいるのが見えた。

「あなたをこうして抱きしめていると、彩芽ちゃんの笑顔が浮かぶのよ」
 
そう言ってお母さんの抱きしめる力が更に強まるのを感じた。それはまるで【離したくない】と言っているように思えた。

温もりを感じる取る為にも、私はお母さんの腕の中で身を委ねる事しか出来なかった。

☆☆ ☆

「急にすみません。抱きしめたりしちゃって」

「と、とんでもないです」
 
ベッドに座り直したお母さんは再び窓の外を眺め始める。

それに釣られて私も窓の外を見つめる。もしかしてお母さんは、景色を眺めるのが好きだったのだろうか?

(それにしても……)

私は部屋の扉を見つめた。じぃじはアヤちゃんと一緒にジュースを買いに行ったきり中々戻って来ないのだ。

ジュースを買ってくるくらいなら直ぐに戻って来れるはずなのに、あれからも
う数十分は経過している。
 
まさか、アヤちゃんを連れて外に出てしまったのだろうか? それとも誰かと話し込んでいるのか……。