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じぃじが車を走らせて数十分――私たちはお母さんが入院している病院へとやって来た。
病院の駐車場に車を止め終えたじぃじを先頭に、私はアヤちゃんの手を引きながら病院の中へと足を踏み入れた。
 
病院の中は看護師さんたちがバタバタと慌ただしく走っていたり、自分の順番が来るまでソファに腰掛けている人も居れば、私たち同様お見舞いに来た人たが、受付で看護師さんと話しているのが見える。
 
ただ、やっぱり病院という事もあって暗い表情を浮かべている人がたくさんいた。希望を失ったような表情を浮かべる人も居れば、自分の名前が呼ばれるまで身動きせず待っている人。

神様に何かを祈るように手を合わせて拝んでいる人など、それぞれの感情や願いを抱えた人たちがここに居るのだと思わされる。

そしてもう一つ分かる事があるとすれば、ここに居る人たち誰一人として、笑顔を浮かべている人が居ないという事だ。
 
アヤちゃんも何か思うところがあったのか、私に縋り付くようにくっついてきた。それに気が
ついた私はアヤちゃんを抱き上げる。

「面会の準備が出来たから行くぞ」

「あ、はい」
 
じぃじの後を追いかけ私たちはエレベータに乗る。エレベーターは五階のところで停まると静かに扉を開いた。

「結さんの病室はこっちじゃよ」
 
じぃじはそう言って先に歩いて行く。アヤちゃんを下ろした私は、もう一度アヤちゃんの手を掴んでお母さんの居る病室へと歩いて行った。
 
【五〇四号室】と書かれた扉の前で私たちは足を止めた。番号札の下には【三留羽結】と名前が記されている。

(ここに……お母さんが居るんだ)
 
じぃじが軽く扉をノックすると、部屋の中から【どうぞ】と返事が返ってきた。その声を聞いたアヤちゃんは、ビクッと肩を上がらせる。じぃじは扉の取手を掴むと静かに横に引く。
 
部屋に差し込む光が眩しくて目を細めた時、ベッドの上に座って窓の外を眺めている人の姿が見えた。

「あっ……」
 
その人……お母さんはこちらに目を向けると、優しく微笑み返してくれた。するとアヤちゃんは、私から手を離すとお母さんの方へと走って行く。