それはずっと知ろうとして来なかったからだ。

この十四年間、お父さんと二人で過ごす事が当たり前になっていて、お母さんの存在をすっかり忘れていたのだ。
 
思い出すきっかけがあるとすれば、お父さんが仏壇にお線香をあげている時くらいだ。それでも私は特に気に留める事なく、普通の日常生活を送っていた。
 
お母さんの事を知らないのは、それはただ単にお父さんが教えてくれないんじゃなくて、私が知ろうとして来なかっただけ。

だからお母さんとの記憶も曖昧なのだ。私にとってお母さんは【過去の記憶】の人だったから。
 
その事に今頃気がつくだなんて、私は何て馬鹿だったのだろう。もっと早くに知れていれば私がお母さんに対する考え方も変わっていたのかもしれない。

「今更そう思っても、遅いよね……」
 
未来に帰ってもお母さんは居ない。病気のお母さんに言葉を掛けてあげる事は出来ない。
 
でも……今は違うのだ。今ならお母さんに言葉を掛けてあげる事が出来る。小さな私の代わり
に思っている事を伝える事が出来るのだ。