「今日は仕事が早く終わったのか?」

「早く上がらせてもらったんだよ」
 
お父さんはじぃじにそう言うと、足に抱き着いて来たアヤちゃんを抱き上げる。私の姿に気が
つくと微笑する。

「綾乃さん。今日はありがとうございました」

「い、いえ、とんでもないです! 私も楽しかったので」
 
私の言葉にお父さんはニッコリと笑った。

「トモ……一つ言っておく事がある」
 
お父さんはじぃじに向き直った。じぃじは目を細めると低い声で言う。

「アヤちゃんとの時間をもっと大切にしてあげなさい。今のこの子には、あんたが誰よりも必要なのじゃからな」

「……」
 
じぃじの言葉にお父さんは何も言わず軽く頷いた。それはまるで応えをはぐらかすように。そんなお父さんの行動に私は小さく首を傾げた。

「明日は休みを取ったから、結のところに行ってくるよ」

「アヤちゃんも連れて行くのかい?」

「……いや、連れて行かないよ」
 
お父さんの言葉に私の胸が一瞬チクリと痛んだ。
 
そう言えば小さい頃の記憶の中で、お母さんのお見舞いに行った時の記憶がない気がする。

もしかしたら忘れているだけかもしれない。でも忘れていても微かに覚えているものだろう。

だってお母さんと一緒に居た大切な時間なのだ。そう簡単に忘れて良い記憶のはずがない。

「なんじゃ……またアヤちゃんは置いていくのか? アヤちゃんだってそろそろ――」

「彩芽は病院に行くより、ここに居た方が良いんだよ」

「っ!」
 
その言葉を聞いた瞬時、私は一歩前に出て口を開いた。

「そんな事ありません!」
 
思わずそう叫んでしまい、じぃじとお父さんは驚いた顔を浮かべて私を見て来た。そんな二人を気にする事なく私は言葉を続ける。

「アヤちゃんだって、お母さんに会いたいはずです! それなのに……アヤちゃんの気持ちを聞かないで勝手に決め付けるのは……やめてください!」

「綾乃さん……」