「良いじゃないか彩芽(あやめ)。学校も夏休みに入った事だし、早い内にやっておいた方が良いだろ?」

私の父、三留羽智哉(みとばともや)が首から下げたタオルで、額に浮かぶサラサラした汗を拭いながらそう言う。

確かに早い内からやるに限るけど、こんな真夏の日にやる事ではない。こまめに水分補給は取るようにしているけど、この暑さだといつ熱中症で倒れてもおかしくない。

「でもさ、こんな日にやる事ないじゃん……」

頬を膨らませて小さくそう呟く。

私とは違い黙々とダンボールに荷物を詰めていくお父さんの背中を見つめる。

「文句言わないで、そこにある荷物を段ボールに詰めてくれ」

「は〜い」

渋々と返事をしながら近くにあったお皿やスプーンを丁寧に段ボールに詰めていく。

こうして見ると、本当にじぃじは物好きだったんだなと思わされる。

懐かしいアンティーク針時計、斬新なデザインで少しプリントがずれている食器類、今では珍しい白黒テレビ、一つ一つ丁寧に模様が彫られ、半透明な柔らかい色で彩られた西洋の花瓶など、今まで見た事ない物ばかりが並んでいる。

小さかった私もよくこのお店には遊びに来たものだ。

二歳の時に病気でお母さんを亡くして、仕事で家に居ない事が多かったお父さんの代わりに、私を育ててくれたのがじぃじだった。

だからこの骨董品屋には、じぃじとの思い出がたくさん詰まっているのだ。