仕事柄家に居る事が少なかったお父さんは、まだ小さかった私をじぃじに預けていた時期があるのだ。

お父さんが仕事に行っている間は、じぃじが私のめんどうを見てくれていた。だから寂しさを感じる事はほとんどなかったけど。

「パパ……」
 
アヤちゃんは寂しそうにお父さんが出て行った先を見つめていた。今のアヤちゃんの気持ちは痛い程良く分かる。
 
じぃじと一緒に過ごして居たとはいえ、やっぱり心の何処かでは思ってしまうのだ。【パパと遊びたい】、【パパと一緒にご飯を食べたい】、【パパと一緒に遊びに行きたい】、【パパと一緒に居たい】と――
 
当時の私はそれを言葉にするのが難しかった。どう言葉にして伝えれば良いのか分からなかったからだ。
 
じぃじは奥の部屋でお客さんの相手をしている。だからアヤちゃんは今一人だ。拳に力を込めた私は、アヤちゃんの後ろに立ってしゃがみ込み優しく尋ねる。

「アヤちゃん、何して遊ぼうか?」

「……おねえちゃん?」
 
今の私が出来る事はアヤちゃんの中から【寂しい】と言う感情を追い出す事だけ。寂しいではなく楽しいと思って思えるように、私は私が出来る事を全力でやってあげたい。

「……おままごとしたい」

「おままごと?」
 
アヤちゃんは少し恥ずかしそうモジモジしながら小さくそう応えた。うん、可愛い! 真っ先に浮かんだ言葉がそれだ。

「じゃあ、おままごとして遊ぼう」

「うん!」
 
アヤちゃんの手を握って私たちは奥の部屋へと戻った。

✩ ✩ ✩
 
おままごとをして遊んでいたら、アヤちゃんは疲れてしまったのか小さく寝息を立てて眠ってしまった。

私は起こさないようにばぁばの部屋から軽い掛け布団を持ってきて、そっとアヤちゃんにかけてあげた。