「ここに荷物置きますね」

「あ、ありがとう、ございます」
 
そう言ってお父さんは大きな袋を部屋の隅に置く。袋に何が入っているのか気になるところだけど今は――

「ねえパパ、もうお仕事行っちゃうの?」

「そうだよ。また夕方になったら迎えに来るから、それまで大人しくしているんだよ?」

「は〜い……」
 
寂しい表情を浮かべたアヤちゃんを見て、お父さんは腕を大きく広げて言う。

「彩芽、ハグしてあげる」
 
優しく笑ったお父さんの言葉にアヤちゃんは嬉しそうに笑うと、お父さんの腕の中にすっぽりと収まる。
 
そう、私が今一番気になっているのは、目の前にいるお父さんの存在だ。

いつか会う事になるかもしれないとは思っていたけど……。会った瞬間、私の知っているお父さんと雰囲気が全然違くて【誰この人?】と思ってしまったのだ。
 
今目の前に居るお父さんは黒縁眼鏡をかけていて、背は高いのに気が弱そうに見える。会社では上司に向かって、ペコペコ頭を下げているように思えてしまう。

私が知っているお父さんは黒縁眼鏡なんてかけていなく、背が高くて筋肉質の体格だ。会社では数人の部下が居て、バリバリ仕事をこなす存在だ。

いったい何がきっかけで今の姿からあの姿に変わったのか気になるところだ。

「綾乃さん。この袋にあなたの服が入っているので、ぜひ着てみて下さい」

「あ、はい。ありがとうございます」
 
私の言葉にお父さんは微笑むと、店の出口に向かって歩いて行く。その後をアヤちゃんは着いて行く。どうやらお見送りをするみたいだ。

「パパ、いってらっしゃい!」

「うん、行ってきます」
 
お父さんはアヤちゃんに手を振った後お店から出て行った。