「――っ!」

慌ててお腹を押さえるが遅かったようだ。

お腹の音はじぃじの耳まで届いたらしく、じぃじはニコニコしながら私に座るように促してくれた。私は少し照れながら席に着く。
 
今日の朝食は出来たての豆腐とワカメの味噌汁に、ばぁばが漬けた漬物。白く湯気を上げている白米に、じぃじが作った卵焼き。

少し質素に思えるかもしれないが、私にとっては充分過ぎる朝食だ。
 
両手を合わせて【いただきます】と言った後、箸を持った私はまず先に出来たてのお味噌汁に
手を付ける。その姿をじぃじは嬉しそうにしながら見ていた。

✩ ✩ ✩

「おじいちゃん、これはここに置けば良いの?」

「おう、そこに置いてくれ」
 
お店が開店するまで三十分。朝食を終えた私はじぃじと一緒にお店に並べる骨董品の整理をしていた。

「綾乃さん、次はそこにこれを置いてくれ」

「あ、はい」

じぃじの指示に従ってテキパキと骨董品を置いて行く。

どこに何の品物を並べるのか全て把握している為か、作業が順調に進んで行くから開店前までには余裕で終わりそうだ。

そんな中私は黒電話の姿を探していた。しかし売り場の何処を見ても黒電話が置かれているよ
うには見えない。

「あの、おじいちゃん」

「ん?」

「一つ聞きたい事があって、ここに黒――」
 
じぃじに黒電話について聞こうとした時、開店前だというのにお店の扉が勢い良く横に引かれた。扉を開けた人物は大きく息を吸い込むと言う。

「じぃじ〜! あそびにきたよ〜!」

「っ!」
 
その声にギョッとした私は、恐る恐る声がした方へと振り返る。そこには凄く見覚えのある女の子が立っていた。

ここに来る度、今日はどんなお話をしてもらえるのか、どんな骨董品を見せてもらえるのかという期待のこもった瞳を浮かべ、女の子はじぃじの元へと駆け寄って行く。

その姿を目で追いじぃじに目を向けると、じぃじはとても嬉しそうに笑顔を浮かべながら、【小さな私】を抱き上げた。