絶対に折れない親方と、絶対に折れる気のない俺。
話は、平行線のままだった。


だけど……親方だけにはわかってほしい。
俺は唇を固く結び、跪いたあとで両手も地面に付け、勢いよく頭を下げた。


「お願いします! どうしても……どうしても今じゃなきゃダメなんです!」

「バカなことすんじゃねぇ! お前にはプライドがないのかっ‼」

「たった今捨てました! “大切なもの”を守るために、俺に今必要なのはそんなものじゃないんですっ!」


俺の言っていることは、きっと支離滅裂だった。
それでも、必死だったんだ。


美乃の傍にいてあげたいんじゃない。
俺が傍にいたいんだ。


「俺はやっと大切なものを見つけたんです! 今ここで引き下がったら、俺は一生後悔しますっ!」


俺はゆっくりと顔を上げ、親方の目を真っ直ぐ見つめた。
親方も俺の目を射抜くように視線を逸らさず、そのまま沈黙が続いた。


「バカやろうっ……! 俺はもう知らねぇぞ! 勝手にしろっ!」


ベンチから立ち上がった親方の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。


「すみませんっ……!」


俺はまた地面に頭を付け、精一杯の挨拶をした。
きっと、情けない格好だろう。


「今までお世話になりました! 本当にっ……ありがとうございましたっ!」

「後悔すんじゃねぇぞ……」


その言葉だけを残して立ち去った親方が、あんなにも必死に反対したのは、俺のことを本気で考えてくれているからだ
そしてわかってくれたのも、俺のことを本気で考えてくれているから。


大切にしなければならない人。
今は無理だけれど、いつかちゃんと恩を返す。


そう強く決意して、立ち上がった。
痺れた足に冷え切った手は痛く、そんな自分の体に苦笑を零し、擦れた額に手を当てて公園を後にした。