職場の近くにある小さな公園に着くと、親方はベンチに座った。
遊んでいた子どもたちがちょうど帰る時間帯らしく、公園はわりと静かだった。


「まぁ座れや」


俺はベンチに座り、遠くの方で沈み掛けている夕陽を見つめていた。
程なくして、ゆっくりと息を吐いた親方が口を開いた。


「お前、なに考えてる?」


親方は、俺のことをよくわかってくれている。
だからこそ、ここ最近の俺の様子が変だと気付いていたんだろう。


実は、俺にはずっと考えていたことがある。
だけど、最近になってやっと気持ちが固まったばかりで、それをまだ誰にも言っていない。


決意はしていたものの、なかなか言い出せなかった。
沈黙が続く中、親方がまた口を開いた。


「彼女のことだろう?」


まるで、俺のすべてを見透かしているかのような親方の一言で、決心をした。
まだ言うつもりはなかったけれど、どうしても今言うべきだと思ったから、俺は深呼吸をして親方を真っ直ぐ見た。


「単刀直入に言います」

「……ああ」


俺は拳をグッと握り、ベンチから立ち上がって頭を下げた。


「仕事を辞めさせてください!」


静かな公園に、俺の声が響き渡った。
気付けば辺りは真っ暗で、強い風が吹いている。


なにも言わない親方が、俺を緊張させる。
恐る恐る頭を上げると、親方は小さなため息をついて睨むように俺の目を見た。


仕事以外でこんな顔をする親方を、今までに一度も見たことがない。
自然と顔が強張って緊張が増し、風のうねりまでもが俺を責めるかのように体を冷たく吹き付けた。