しばらくすると、菊川先生が俺に目で合図を送ってきた。
内田さんに美乃を任せ、先生と一緒に病室を出る。
「ご家族の人は?」
不安しか感じない言葉に、体がビクリと強張る。
菊川先生はそれを察したのか、小さく笑って言葉を付け足した。
「心配しないで、君が思ってるような意味じゃないから。ただ、美乃ちゃんの容態を説明しようと思ってね」
「まだ式場の近くで、食事をしてるんじゃないかと……。あの……美乃は?」
「ああ、二〜三日はこのままかもしれないね……。まだ今の段階ではなんとも言えないけど、油断はできない」
「危ない、ってことですか……?」
手の平に掻いた汗を、スーツのズボンで拭う。
菊川先生が口を開くまでは三秒もなかったはずなのに沈黙がすごく長く感じ、ドクンと脈打つ心臓の音が頭まで聞こえている。
「本当になんとも言えないんだ……。今までにも何度かこういう状態はあったけど、なんとか乗り越えてきた。だからと言って、今回も乗り越えられるというわけではないんだよ……」
菊川先生の言っている事はわかるけれど、頭の中にモヤが掛かったようになっていく。
「ご家族には、僕から連絡しておくから。君は病室に戻って」
「はい……」
返事をした声はやけに乾いていて、フラフラと病室に戻った。
足が鉛のように重く、病室は目の前なのに今は遠く感じた。
『油断はできない』
菊川先生の言葉が、何度も頭の中を過ぎる。
美乃の余命が、もう永くないことはわかっている。
だけど……覚悟なんてできていない。
“そんなもの”、できるはずがないんだ。
恐る恐る病室に入ると、静かな室内に小さな物音だけが響いていた。
そんな独特の雰囲気が、また俺を緊張させた。
内田さんに美乃を任せ、先生と一緒に病室を出る。
「ご家族の人は?」
不安しか感じない言葉に、体がビクリと強張る。
菊川先生はそれを察したのか、小さく笑って言葉を付け足した。
「心配しないで、君が思ってるような意味じゃないから。ただ、美乃ちゃんの容態を説明しようと思ってね」
「まだ式場の近くで、食事をしてるんじゃないかと……。あの……美乃は?」
「ああ、二〜三日はこのままかもしれないね……。まだ今の段階ではなんとも言えないけど、油断はできない」
「危ない、ってことですか……?」
手の平に掻いた汗を、スーツのズボンで拭う。
菊川先生が口を開くまでは三秒もなかったはずなのに沈黙がすごく長く感じ、ドクンと脈打つ心臓の音が頭まで聞こえている。
「本当になんとも言えないんだ……。今までにも何度かこういう状態はあったけど、なんとか乗り越えてきた。だからと言って、今回も乗り越えられるというわけではないんだよ……」
菊川先生の言っている事はわかるけれど、頭の中にモヤが掛かったようになっていく。
「ご家族には、僕から連絡しておくから。君は病室に戻って」
「はい……」
返事をした声はやけに乾いていて、フラフラと病室に戻った。
足が鉛のように重く、病室は目の前なのに今は遠く感じた。
『油断はできない』
菊川先生の言葉が、何度も頭の中を過ぎる。
美乃の余命が、もう永くないことはわかっている。
だけど……覚悟なんてできていない。
“そんなもの”、できるはずがないんだ。
恐る恐る病室に入ると、静かな室内に小さな物音だけが響いていた。
そんな独特の雰囲気が、また俺を緊張させた。