「いっちゃん、パパとなに話してたの?」

「え? いや……」


投げ掛けられた質問に困っていると、美乃の父親が口を開いた。


「男同士の話だよ」

「えっ?」

「なんだよ、それ⁉」

「……そういうことだよ」


交互に驚き混じりの声を上げた美乃と信二が、なにかを訴えるように俺を見た。
俺は意味深な笑みを浮かべ、不満そうな彼女を見下ろす。


察していたらしい美乃の母親は、周りに気付かれないようにそっと頭を下げた。
俺も微笑みながら会釈をし、美乃の頭をポンポンと撫でた。


「あ、そうだ。由加さんにブーケをもらったの!」


今の今まで不満そうにしていた彼女は、思い出したかのように手に持っていたブーケを見せ、満面に笑みを浮かべた。
色々なことへの喜びで、ガラにもなく胸がいっぱいになる。


「よかったな」

「幸せの花束だよ!」

「祝福の花束よ!」


美乃の言葉を、広瀬が笑顔で訂正した。


「祝福の花束? ……あ、そっか! 結婚式だもんね!」


美乃がふふっと笑うと、広瀬が首を横に振って微笑んだ。


「それのお祝いよ」


広瀬が、真っ白なウェディンググローブに包まれた指を差した。
その先には、美乃の薬指のリングがあった。


「……由加さん、気付いてたの?」

「はぁ⁉ なんだよ、それっ!」


それぞれに違う意味合いで驚きを見せた美乃と信二に、広瀬が得意げに笑って見せる。


「当たり前よ! 女は鋭いんだから」

「お前、いつ渡したんだよ! さっきはしてなかっただろ!」


なぜか焦り気味の信二を見て、俺と美乃は肩を震わせて笑う。
広瀬も、一緒になって笑っていた。


両家の両親は俺たちのやり取りを見守り、ずっと微笑んでいた。
スケジュール的に余裕はない上に簡易的な結婚式だったけれど、俺たちにとっては最高の結婚式だった――。