できるだけ時間を掛けないように気をつけていたけれど、思っていた以上に時間が掛かってしまった。
結局、病院に戻ってこられたのは、外出を許可されていた時間が過ぎてからだった。


「ちゃんと時間を守ってくれないと、次からは許可を出せなくなってしまいますよ」

「美乃ちゃんはもちろん、みなさんもちゃんと気をつけてくださいね?」


俺たちは病室に来た菊川先生と内田さんに、少しだけ叱られてしまった。
だけど、ふたりは最後に優しい笑顔で信二と広瀬にお祝いを言って、病室から立ち去った。


「怒られちゃったね……。ごめんね、美乃ちゃん……」

「大丈夫だよ! ふたりともあんな風に言ってたけど、すっごく優しいから」


申し訳なさそうにする広瀬に、美乃が笑顔を見せる。
元気そうにしていても疲れているはずなのに、一向に横になろうとしない彼女を見兼ねて、俺たちはすぐに病院を後にした。


結婚式はたったの二週間後なのに、それまでの時間がひどくもどかしく感じた。
俺は相変わらず、毎日欠かさず病院に通い続けた。


幸いにも、美乃の体調が悪化することはなかったけれど、体調がよかったわけでもない。
それでも、信二と広瀬の結婚式を心待ちにしている彼女にとっては、その日が心の支えになっていたんだろう。


顔色が悪くても、つらそうな表情を見せることはほとんどなかった。
そして、みんなが待ち焦がれていた信二と広瀬の結婚式が、ようやく明日に迫った。


比較的体調がよかった美乃といつものようにキスをしてから病室を出て、帰宅してすぐに滅多に着ることのないフォーマルスーツを出した。
俺は、なぜか自分のことのように緊張していて、ベッドに入ってもなかなか寝付けないどころか、結局は一睡もできなかった――。