病院に行く前とは打って変わって、気が重くなっていた。
きっかけは、ほんの些細なこと。


最近はつまらないことで、精神状態がコロコロと変わる。
俺らしくもない、感情の起伏が激しい毎日だった。


「染井! 一緒に帰ろうぜ!」


病院を出た直後、後ろから信二が追ってきた。
信二は、俺の不自然さを感じ取ったのかもしれない。


「お前も帰るのか?」

「ああ、女の話はなかなか終わらないからな。俺も今日は帰ることにしたよ」


信二は苦笑しながら、俺の隣に並んで歩き出した。


「まだ考えてるのか?」

「なにが?」

「この間のことだよ」


信二は、俺が居酒屋での出来事を気にしていると思っていたらしい。
確かにそれも気になるけれど、今はまた違うことで落ちている。


俺は首を横に振ってそのまま黙って歩き、信二は無言で俺の歩調に合わせていた。
しばらく沈黙が続いたあと、俺から話し掛けた。


「そういえば、お前が広瀬に買った指輪ってどこの店のやつ?」

「えっ? 急になんだよ?」

「いや、別に深い意味はないけど……。ちょっと気になったからさ」


信二は少しの間考えるような表情を見せ、小さく笑いながら口を開いた。


「駅前のジュエリーショップだよ。お前が美乃にネックレス買ってやった店。因みに、結婚指輪もそこで予約してあるんだ」

「あの店で買ったのか」

「ああ、あそこは由加と美乃のお気に入りの店だからな」


そういえば、美乃は外出の度にあの店を見ていた。
だけど、彼女があの店でなにかを買うことはなかったし、そこまでお気に入りの店だとは思わなかった。


「そっか。サンキュー」

「おう!」


それからは他愛もない話をし、明日の昼過ぎに病院に行く約束をして信二と別れた――。