「俺がどんな未来を描いてみても、そこに美乃はいない気がして恐いんだ……」


素直な気持ちを言葉にすると、泣き出してしまいそうになった。
賑わう店内で、俺たちのテーブルだけが重い空気を纏っている。


最愛のひとを失くすことへの、恐怖。
心を覆い隠すように押し寄せる、不安。
そんな感情に飲み込まれそうになる日々に、いつだって気が狂いそうだった。


だけど……俺は、美乃を手放せない。
彼女が別れを望んだとしても、きっと手放さない。
こんな自分に嫌気が差し、消えることのない恐怖や不安から逃げ出してしまいたくなる。


ジョッキにはまだビールが半分以上残っているけれど、泡はすっかり消えていた。
今日はどれだけ飲んでも酔えそうにないものの、それをまた一気に飲み干し、店員にビールを頼んだ。


しばらくして運ばれてきたビールを一口飲んだあと、恐る恐る信二を見た。
すると、眉を寄せていた信二が口を開いた。


「俺もさ、美乃がいなくなることが恐いんだ。でも、ずっと前から心のどこかで覚悟もできてたんだろうな……。最近は、自分でも驚くほど冷静なんだ」


意外な言葉に、なにも言えなかった。
だけど、苦しみから抜け出せない俺は、信二が少しだけ羨ましくも思えた。


「お前が不安なのは、それだけ美乃を本気で好きだからだよ……。お前の描く未来に美乃はいないのかもしれないけど、美乃の描く未来にはきっとお前がいる。だから、そんな顔するなよ」

「ああ……」


俺は、力なく頷くことしかできなかった。


「上手く言えなくて、ごめんな……」

「俺の方こそ悪い……。こんな話……」

「バカ! お前が自信なさそうにしてると、俺まで不安になるだろ!」

「ああ、悪い……。……よし、飲むか!」

「おう! 俺もまだまだ飲めるからな!」


この暗い空気を取っ払うように、俺たちはひたすら飲み続けた。