「本当に色々あったよ。喧嘩する度に、美乃ちゃんに怒られてた」

「美乃に?」

「うん。『もっと素直になりなさい!』ってね。『私は恋愛のことはよくわからないけど、自分の好きな人が自分を好きになってくれるって、きっとすごいことだよ! だから素直にならなきゃダメ!』って、よく言われたの」

「お前ら、そんな事があったのか……」

「私、気が強いから喧嘩しても謝れなくて……。そしたら、いつもそう言われたの。美乃ちゃんに言われると、もうグサッと来ちゃってね……。よく反省してた」


信二も知らなかったらしく、目を丸くしている。
俺は黙ったままでいると、広瀬はその時のことを思い出すように自嘲気味に笑った。


「でもこれは女同士の秘密だから、聞かなかったことにしてね?」


最後にそう言った彼女が、ジョッキのビールを一気に飲み干して店員を呼んだ。


「すみませーん! もう一杯くださーい!」

「おい、大丈夫かよ⁉」

「由加は弱いんだから、そろそろやめとけ!」

「なに言ってるの! あんたたちももっと飲みなさいよ! 染井はどうせ強いんでしょ!」

「あのなぁ、広瀬……。明日も仕事だろ?」

「いいの!」


結局、広瀬はひたすら飲み続け、酔い潰れて眠ってしまった。
俺たちの忠告を聞かなかった彼女に、信二とともに眉を寄せてしまう。


「あーぁ……。だから、言ったのに……」

「大変だな、お前も……」

「本当に振り回されてばっかりだよ。でもまぁ、惚れた弱みだな……。こいつには一生敵わないよ。今のお前ならよくわかるだろ?」

「ああ……」


ジョッキを煽った信二に、深々と頷く。
俺も一気にジョッキを空け、ビールを追加した。