俺たちは別行動を取り、二時間後に館内にあるレストランで待ち合わせることになった。
俺と美乃は手を繋ぎ、幻想的な水族館の中をゆっくりと歩いた。


一面水槽の部屋でたくさんの魚に囲まれながら、彼女はずっと笑っていた。
楽しい時間が流れる。
それはまるで、どこか他の世界に引き込まれてふたりで遠い国に来たような、幸せで切ない錯覚だった。


このまま時間が止まってくれればいいのに……。


水槽を眺める美乃を見ながら、本気でそう思った。
そして……彼女も心のどこかで、それを望んでいたんだろう。


「このままずっとここにいたいなぁ……」


水槽を眺めながら微笑んだ美乃が、まるで無意識かと思わせるくらい自然とそう呟いた。
楽しそうな彼女の胸の内に触れた瞬間、嬉しさと切なさに挟まれて胸の奥が締めつけられる。
水槽で泳ぐ魚たちが急に悲しげに見えて、不覚にも泣き出してしまいそうになった。


「ねぇ、いっちゃん……。この魚たちはどこから来たのかな?」

「ん? 海だろ?」


美乃の可愛い問い掛けに、冗談めかして答えた。


「もう! そういうことじゃなくて!」

「わかってるよ。……こいつら、どこから来たんだろうな」

「こんな水槽の中で、どんな思いしてるのかな?」

「本当は海に帰りたいのかもしれないよな……」

「えっ⁉ どうして?」


俺が苦笑を零すと、彼女が不思議そうな顔をした。


「いや……。こいつらだって、本当は広い海で泳ぎたいんじゃないかと思って……」

「そうかな? 案外、そんなことないかもしれないよ?」


ごく普通に言い切った美乃の言葉を、どう捉えればいいのかわからなかった。


「美乃こそ、どうしてそう思うんだ?」


彼女は水槽にそっと触れ、ニッコリと笑いながら俺を見た。