「今度の日曜日、午後一時から。夕食までには必ず戻ること。移動は車で、今回は家族の人も誰か付き添うこと。……これが絶対条件だよ」

「えっ⁉」

「僕だって、できれば美乃ちゃんの意見を尊重してあげたいからね。もちろん美乃ちゃんが体調を崩せば、許可はできないけど……」


あの日から何度も頼み込んで三日目の今日、やっと菊川先生から許可をもらえた。
俺は一瞬目を見開いたあとで、頭を深く下げた。


「ありがとうございます!」

「医者としては、致命的な判断になるかもしれない……。だけど、それでも僕はひとりの人間として、彼女の気持ちを考えてあげたいと思った。これは、その結果だよ」

「先生……」

「君を見ていると、彼女のためになにかしてあげたいと思ったんだよ」


先生は目尻にシワを浮かべて、優しく笑った。
「早く伝えてあげるといい」と付け足され、もう一度頭を下げてから急いで病室に向かった。


「本当にっ⁉」

「ああ、許可がもらえたんだ! 水族館に行けるぞ」

「ありがとう、いっちゃん!」

「今週の日曜だからな! 絶対に体調崩すなよ?」

「うんっ‼」

「信二と広瀬も誘って、四人で行こう!」


予想通り、美乃は満面の笑みで大喜びしていた。
正直なところ、俺も彼女に負けないくらい浮かれてしまっていた。


「じゃあ、仕事に戻るから」

「うん、いってらっしゃい」


腕時計を確認してから、「ちゃんと安静にしておくんだぞ」と告げる。
美乃は笑顔のまま、俺の頬にキスをした。


「こっちは?」


唇を指差しながら、彼女に顔を近付ける。


「……っ、もうっ!」


すると、恥ずかしがった美乃に、病室から追い出されてしまった。
予定よりも少しだけ遅くなったから全力で走って現場に戻ったけれど、なぜかちっとも疲れていなくて、残りの仕事もあっという間に片付けた。