「水族館に行きたいの」
ある日、美乃がそんなことを言い出した。
ここから一番近い水族館でも、車で一時間は掛かってしまう。
往復で二時間も掛かるというだけで、とても無理な願いだった。
「どうしても行きたいの……」
「でも、許可が出ないだろ?」
「そうだよ、美乃ちゃん」
懇願する彼女に、信二と広瀬が困惑の表情を見せる。
「でも、後悔したくないんだもん! 私は……なにもやり残さずに死にたいっ……!」
その言葉を聞いて、反対していたふたりが黙り込んでしまった。
「ねぇ、いっちゃん! お願い!」
俺だって、できることなら叶えてやりたい。
だけど、菊川先生に頼んだところで、却下されるだろう。
信二も広瀬もそれをわかっているから、なにも言えなかったんだ。
沈黙が続く中、俺は息を小さく吐いたあとで笑みを浮かべた。
「わかった。先生に訊いてやるよ」
程なくして、美乃の回診に来た菊川先生にさっきのことを話し、『外出の許可が欲しい』と告げた。
冷静に話すつもりだったけれど、話を終える頃にはすっかり興奮した口調になっていた。
美乃の願いを叶えたくて、とにかく必死だったんだ。
一緒にいた信二と広瀬も、代わる代わる先生に頼んだ。
だけど……予想通り、菊川先生は『無理』の一点張りだった。
先生の答えが当たり前の判断だと、頭ではわかっている。
それでも、俺は諦めたくなくて、何度も頼んだ。
美乃は外出許可が出なくても、今まで絶対に不満を漏らさなかった。
いつだって我慢して、ずっと生きてきたんだ。
だから、これからは俺が美乃の願いを叶えたい……。
そう強く思っていた。
「ほんの少しの時間でもいいんです! お願いします! 水族館に行けるように外出許可をください!」
俺は諦めずに、菊川先生にそう訴え続けた――。
ある日、美乃がそんなことを言い出した。
ここから一番近い水族館でも、車で一時間は掛かってしまう。
往復で二時間も掛かるというだけで、とても無理な願いだった。
「どうしても行きたいの……」
「でも、許可が出ないだろ?」
「そうだよ、美乃ちゃん」
懇願する彼女に、信二と広瀬が困惑の表情を見せる。
「でも、後悔したくないんだもん! 私は……なにもやり残さずに死にたいっ……!」
その言葉を聞いて、反対していたふたりが黙り込んでしまった。
「ねぇ、いっちゃん! お願い!」
俺だって、できることなら叶えてやりたい。
だけど、菊川先生に頼んだところで、却下されるだろう。
信二も広瀬もそれをわかっているから、なにも言えなかったんだ。
沈黙が続く中、俺は息を小さく吐いたあとで笑みを浮かべた。
「わかった。先生に訊いてやるよ」
程なくして、美乃の回診に来た菊川先生にさっきのことを話し、『外出の許可が欲しい』と告げた。
冷静に話すつもりだったけれど、話を終える頃にはすっかり興奮した口調になっていた。
美乃の願いを叶えたくて、とにかく必死だったんだ。
一緒にいた信二と広瀬も、代わる代わる先生に頼んだ。
だけど……予想通り、菊川先生は『無理』の一点張りだった。
先生の答えが当たり前の判断だと、頭ではわかっている。
それでも、俺は諦めたくなくて、何度も頼んだ。
美乃は外出許可が出なくても、今まで絶対に不満を漏らさなかった。
いつだって我慢して、ずっと生きてきたんだ。
だから、これからは俺が美乃の願いを叶えたい……。
そう強く思っていた。
「ほんの少しの時間でもいいんです! お願いします! 水族館に行けるように外出許可をください!」
俺は諦めずに、菊川先生にそう訴え続けた――。