秋に差し掛かると、肌寒くなったせいか、美乃は体調を崩す日が増えた。
俺は毎日朝と夜に病院に顔を出し、仕事現場から病院が近い時は休憩時間も彼女の様子を見に行くようになった。


「クビになっちゃうよ!」

「別にサボってるわけじゃないから、大丈夫だって」

「……本当に大丈夫なの?」


美乃は俺のことを心配していたけれど、俺は彼女の方が心配だった。


「ああ。高校を卒業してからずっと今の仕事をしてるから、これでも上司には信頼されてるんだ。ちゃんと時間までに戻るから、大丈夫だよ」

「そんなこと言って……。クビになったら笑うからね!」

「お前は俺に会いたくないのか?」

「……っ、それは……」


狼狽える美乃が可愛くて、意地悪な笑みを浮かべながら彼女を見つめた。


右手で美乃の左頬に触れ、顔を近付ける。
耳まで真っ赤にする彼女の顎を左手で少しだけ上げ、ピンク色の唇をそっと塞いだ。


病室の窓から小さく射し込む午後の陽射しの中、密やかに唇を重ねる。
唇を離すと、はにかみながらも優しい瞳を見せる美乃がいた。


これが、俺たちの初めてのキスだった――。