じっと黙っていた美乃が、ふと柔らかい笑みを浮かべた。


「いっちゃんといると、もっと笑えるような気がするの」


その言葉に喜びを感じるよりも早く、胸の奥がトクンと高鳴る。
込み上げてくる“なにか”を必死にこらえ、彼女の次の言葉を待っていた。


程なくして、ゆっくりと柔和な弧を描いた綺麗な瞳が、俺の目を真っ直ぐ見つめた。
まるで、もう迷わない、とでも言うように。


「私、いっちゃんが好き」


大切そうに紡がれたのは、ずっと聞きたかった言葉。


嬉しくて……。ただただ、嬉しくて……。
鼻の奥に鋭い痛みを感じた俺は、必死に涙をこらえながら美乃の華奢な体を抱き締めた。


柔らかな香りが、鼻先をふわりとくすぐる。
彼女鼓動と体温を、しっかりと感じられる。


今だけは悲しい真実を忘れて、美乃の温もりを感じていたい。
そう思った時、背後で信二と広瀬がそっと病室から出たことに気付いて、腕の中に閉じ込めた彼女の耳元に唇を寄せた。


「愛してる……」


囁いたそのたった一言に、すべてを込められるほどの小さな想いじゃない。
どれだけの言葉を尽くしても、きっと足りないだろう。


だけど……素直に零れたそれが、今なによりも伝えたい言葉だった―。