「だから、今日はここに来れてよかった」

「……そうか」

「うん」


どこか吹っ切れたように微笑む美乃を見て、ふと思いつく。
ソメイヨシノを見上げたあと、彼女に笑顔を向けた。


「美乃、さっきのネックレス貸して」

「え? どうするの?」

「いいから」

「う、うん……」


不思議そうな美乃から箱を受け取ってリボンを解き、中からネックレスを取り出して少しだけ屈む。
そして、彼女の首の後ろに手を回した。


緊張しているのか、美乃は黙って俯いている。
そんな彼女の華奢な首にネックレスを着けて、サラサラの髪にそっと触れた。


小さなハートのチャームが、美乃の胸元で静かに輝いている。


「ハッピーバースデー、美乃。二十一歳の誕生日、おめでとう」


微笑みながら言うと、今まで俯いていた彼女が弾かれたように俺を見上げた。
言葉を失くして目を丸くしている姿は、俺の言葉が予想外だったことを物語っている。


程なくして、瞳いっぱいに涙を浮かべた美乃が、穏やかで優しい笑顔を見せた。


「ありがとう……」


彼女の頬を伝う涙が夕陽に照らされ、キラキラと光る。


少しだけ遅れたけれど、ふたりきりでささやかに祝った美乃の誕生日。
俺はきっと、彼女と見た今日の夕陽を一生忘れないだろう――。