店員に見送られてジュエリーショップを後にし、行き交う人々に飲み込まれないようにゆっくりと歩いた。
プレゼントしたネックレスの箱を大切そうにバッグに入れる美乃を横目に、そっと腕時計に視線を落とす。


「そろそろ、病院に戻らないとな……」


それを切り出すのは心苦しかったけれど、最近やっと体調がよくなったばかりの彼女を連れて動くのは不安がある。


「あのね、行きたいところがあるの。もう少しだけ付き合ってくれる?」

「でも、無理したらまた……」

「大丈夫、今日は調子がいいの。だからお願いっ‼」


体調は心配だったけれど、遠慮がちに訴えてきた美乃の願いはできる限り聞いてあげたい。
彼女の真剣な視線を感じながら悩んだ末、俺は「少しだけなら」と念押しをしてから頷いた。


向かった先は、美乃の家の近くの公園だった。
彼女は一本の木の前で立ち止まって、すぐ後ろにいる俺を振り返った。


「この木はね、ソメイヨシノなの。私が生まれた時に、満開だったんだって」

「美乃の名前の由来になった木って、これのことだったのか?」

「うん。毎年、誕生日には絶対にここに来てたの。入院してからもずっとね。でも……今年は来れなかったんだ……」


不安を隠すように微笑む美乃に、胸の奥が締めつけられる。


「私は、二十歳まで生きられないって言われたけど、まだ生きてる。ちょっとだけラッキーかな」


彼女は今年の春で二十一歳になり、宣告されていた余命よりもほんの少しだけ長く生きている。


「余命を宣告されてから歳を重ねるのが恐くなって、『誕生日が来なければいいのに……』って思うようになったの。だからこそ、今年の誕生日にはここに来れなかったことがずっと不安だった……」


美乃は涙を浮かべながら、ソメイヨシノを見上げていた。