会計を済ませた俺は、一足先にカフェを出ていた美乃を探し、すぐ近くのジュエリーショップの前でネックレスを眺めている彼女を見つけた。


「可愛い……」

「買ってやるよ」


俺に気付かずに呟いた美乃に言って、店内に足を踏み入れる。


「いらっしゃいませ」

「ちょっと、いっちゃん⁉」

「すみません、外のショーケースのネックレスください」

「いらないよ! すみません、私たちお客じゃないですから!」


勝手に話を進める俺の隣で、美乃が慌てて店員に頭を下げた。


「いいよ、買ってやるから」

「いらないってば! もらう理由ないもん!」

「俺が買いたいんだよ」

「いいよ! 病院でアクセなんて着けないもん!」

「誕生日プレゼントだよ。あの、ラッピングしてもらえますか?」

「私、誕生日じゃないもん!」


俺が店員に笑みを向けると、彼女がすかさず否定した。


「知ってるよ、四月だろ? でも、俺はその時知らなかったし、今日プレゼントするんだ」


困った様子の美乃を見ながら、店員は笑顔で口を開いた。


「素敵な彼氏さんですね。羨ましいです」

「えっ⁉」


目を見開く彼女の隣で、緩む口元を隠す。
どうやら、店員は俺たちを恋人同士だと勘違いしたらしく、まるで子どもみたいだけれど、それが無性に嬉しかった。


言葉を失った美乃を余所に、店員にネックレスをラッピングしてほしいと告げた。


「誕生日おめでとう」


程なくして、店員から華奢な箱が入った紙袋を受け取り、彼女に笑みを向けて渡した。
恋人同士だと誤解されたまま否定しなかった美乃は、ほんの少しだけ困ったように悩んだあとで、嬉しそうに破願した。


「ありがとう」

「桜色のリボン、美乃のイメージにピッタリだな」


ふっと微笑んだ俺に、彼女が瞳を緩めて穏やかに笑った。