「やっぱり痛いんだろ? すぐそこは病院だし、行こう」


面倒くさいけれど、仕方ない。
そんな気持ちを隠して言った俺に対し、女は頑なに断った。


だけど、後々面倒なことになるのは避けたい。


「いいから行くぞ」


ため息混じりに強引に女を抱き上げ、足早に歩き出す。


「ちょっ……! 離してっ‼」


彼女は嫌がって暴れたけれど、俺はさっさと帰りたいこともあって聞く耳を持たなかった。


「暴れんな、落ちるぞ」


そう言い放ってそのまま目の前にある病院に入ると、血相を変えたような声が飛んできた。


「美乃ちゃんっ!」

「最悪……」


すると、女はため息をつきながら、恨めしそうに俺をキッと睨んだ。
声がした方に視線を遣ると、看護師が走り寄ってくるところだった。


「どこ行ってたの? 『今日は絶対に安静よ』って、あれほど言ったじゃない……」


「散歩……」


近づいてきた看護師から視線を逸らした女は、どこかバツが悪そうにしながら答えた。


「もう! 嘘おっしゃい! まぁいいわ……。先生を呼んでくるから、すぐに病室に戻って。……ところで、あなたは?」


看護師は、怪訝な顔つきでまじまじと俺を見た。