「『泣いても笑っても、現実は変わらない。美乃が泣いてると、みんなつらいんだ。俺はお前の笑顔が好きだから、どうせなら笑っていてほしい。精一杯の笑顔で、一生懸命生きるんだ』」


自分の病気を知って毎日泣いていた美乃を見た信二が優しく諭したけれど、彼女はそれを綺麗事だと言って撥ねつけたらしい。


「『お前、知らないのか? 泣いてばっかりだと運が落ちるんだぜ。でも、笑ってる奴のところには、自然と幸運が降ってくるんだ』」

「お兄ちゃんにそう言われてから、少しずつ笑うようになったの」と、美乃がどこか懐かしそうに微笑む。
その話を聞いて、改めて彼女を好きだと感じた。


「俺はやっぱりお前が好きだよ」


自分の気持ちを言ったのはあれから初めてではなく、むしろもう何度もこの想いを伝えている。
俺の気持ちが同情じゃないと、美乃にわかってほしかった。
ただ、彼女の答えはいつも変わらなかったけれど……。


「いっちゃんの気持ちが同情じゃないことは、わかった。でも、私は恋はしないから……。ごめんね……」

「それは何度も聞いたよ。でも、俺が知りたいのは、美乃が俺をどう思ってるかってことなんだけど」


俺たちはいつも同じ言葉の応酬をしたけれど、美乃は最後には寂しそうに笑うだけでそれ以上はなにも言わなかった。
たった一度だけ、『いっちゃんはお兄ちゃんみたいな存在だよ』と言われたけれど、あとはやっぱり同じ答えだった。


俺の気持ちが同情じゃないと理解してもらえて嬉しかったし、それで充分だとも思ったけれど……。やっぱり傍にいたくて、どうしても彼女が欲しかった。


例え残り少ない命だとしても、俺は美乃と一緒にいたかった。
たぶん、彼女も俺のことが好きだと思うし、信二も広瀬もそう感じているようだった。


だけど、美乃は頑なに『恋はしない』と言う。
俺はなにもできないまま、季節は夏の終わりを迎えていた――。