「……っ! そんなんじゃないっ! 誰かを好きになったら、今よりももっと死ぬのが恐くなるからだよ! だから、私は絶対に恋はしないのっ……! 返事はNOだよっ‼ わかったなら、もう二度とここには来ないでっ‼」


美乃は息継ぎもせず、大声でそう言い放った。


「もう、みんな出ていってよっ‼ お願いだからひとりにして……っ!」


泣きじゃくる彼女が、俺達を追い出そうとする。
取り乱しながらわんわん泣く姿は、まるで子供みたいで、俺も涙が止まらなかった。


興奮した美乃は、そのまま呼吸が乱れ始めた。
信二と広瀬が慌てて看護師を呼び、俺は払い退けられた自分の手をもう一度彼女の手と絡めた。


美乃は片方の手で胸元を押さえながら、俺の手を強く握っていた。
菊川先生と看護師たちがすぐに病室に駆けつけ、彼女はなんとか落ち着きを取り戻した。


「いったい、なにがあったんですか?」


俺たちは、菊川先生からの問いに答えられず、先生や看護師は怪訝な表情をしながらも出ていった。
程なくして、俺たちも鎮静剤で眠った美乃を残して、病室を後にした。


信二も広瀬も無言のまま俯きがちに歩いていて、俺は今まで彼女に絡めていた自分の右手を見つめながらふたりの後ろを歩いた。


美乃の傍にいたい……。


美乃が苦しみながらも俺の手を必死に握っていた光景が脳裏に焼きつき、さっきよりも強く彼女から離れたくないと思っていた。


静かに芽生えた、決意。


“弱さを必死に隠していた美乃を守る”


本気で恋愛をしたことがないから、こんな時どうすればいいのかわからないけれど……。
美乃にとっては、俺の愛情を押しつけるだけのつらい恋になるのかもしれないけれど……。


それでも、これが俺なりの精一杯の愛情だった。
誰になんと言われようと、この想いを貫こうと誓った――。