「……だから、私は絶対に恋はしないの」


泣きながら話していた美乃は、静かに話を終えた。


気が付くと、信二は涙を浮かべながら拳を強く握り締めていた。
広瀬も嗚咽を漏らしながら、信二の腕にしがみついている。


美乃はいったい、あとどれくらい生きられるのか……。
どんなに長くても、それは絶対に年単位ではない。
「今日、菊川先生からそう言われた」と、彼女が小さな声で付け加えた。


「だから……もしも、いっちゃんが私のことを本気で好きなら、もうここには絶対に来ないで……」

「美乃っ……! もうすぐ死ぬから恋はしないなんて、そんなの悲しいだろっ‼ もしかしたら、俺より長生きするかもしれないのにっ……! 誰だっていつ死ぬのかなんてわからない! だから、恋はしないなんて決めつけるな! 美乃だって、自分の気持ちを素直に言っていいんだよっ……!」


真剣な表情で叫ぶように話した信二は、手の甲で涙をグッと拭った。
俺はなにを言えばいいのかなんてわからなかったけど、もう迷わないし引かない。
自分の中で、そう固く決心していた。


信二の言う通り、誰だって自分の寿命なんて絶対にわからない。
一歩外に出れば、交通事故に遭うかもしれない。
美乃だって、病気が治るかもしれない。
それが限りなくゼロに近い可能性だとしても、俺の気持ちはもう決まっている。


俺はそっと、彼女の手を握り締めた。


「生きるとか死ぬとか、そんなことじゃなくて……。美乃の気持ちを聞かせてほしい。……俺のこと、嫌いか?」


美乃は唇をギュッと噛み締めて、ただただ泣くばかりだった。


「美乃は優しいから、俺に気を遣かってるのかもしれないけど、正直な気持ちを聞かせてほしいんだ」


すると、彼女が俺の手を払い退け、涙に支配された瞳で俺のことを睨んだ。