「私は、ふたりが付き合うといいなって思う。でも、美乃ちゃんはたぶんそれを望んでないのよ。美乃ちゃんは……恋愛を避けてるから……」


悲しそうに微笑む広瀬が、俺の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「もうひとつ、これも勘だけど……」

「なんだよ?」


戸惑うように言葉を止めた広瀬を促すと、彼女は一呼吸置いたあとで小さく笑った。


「美乃ちゃんは、染井のことが好きなんじゃないかな……」

「え……?」


言葉の意味を理解するまでに、数秒を要した。


美乃が俺を好き……?


ソメイヨシノの話をした時、俺が感じたこと。
それを広瀬から言われたことによって、心臓がさっきまでよりも大きく脈打ち始める。


一度は、自分も感じた。
だけど、今日の美乃の様子を見て、やっぱり気のせいだったんだと思った。
どちらが本当なのかはわからないけれど、少なくとも広瀬の見解は俺と同じらしい。


そのあと、広瀬はそのことについてはなにも触れてこなかったけれど、彼女の話はもう耳に入ってこなかった。
つんざくような蝉の鳴き声が、随分と遠くで響いていた―――。