「前にもこんなことがあったんだよね……。その時は信二も一緒だったんだけど、今日みたいな感じで……」


先に口を開いたは、広瀬だった。


「その時をきっかけに、美乃ちゃんは私に気を遣って……。その前からずっと、美乃ちゃんは気にしてたのよ。『私がいたら、由加さんとお兄ちゃんがふたりで過ごせない』って……」


その声には、涙が混じっていた。


「私はそんなこと気にしてないのに、美乃ちゃんが言うのよ。『お兄ちゃんはいつも私を優先するから、私がいたら由加さんが可哀相』って……。信二と付き合ってすぐに美乃ちゃんのことを聞いてたし、美乃ちゃんを嫌だと思った事はないのよ。あんなにいい子なんだもの……。本当の妹みたいに可愛くて、一緒にいるのが楽しいのよ」


美乃の笑顔が頭を過ぎって、胸の奥が締めつけられる。
彼女は気が強いけれど、それ以上に本当に優しいからこそ、病気のことで自分自身を責める時もあった。


病気は、誰のせいでもないけれど、美乃の長期入院で家族が大変なのは紛れもない事実。
彼女が常に笑顔を絶やさないのは周囲への精一杯の思いやりで、気が強いのは病気に負けないための強がりなのかもしれない。


美乃は必死で生きてるんだな……。


俺は、今さらそんなことに気づいた。