数日後ーー。
美乃の誕生日を祝ったあの公園に行き、ソメイヨシノの木の下で足を止めた。


ここに来るのは、あの日以来。
あの時のことは、まだ鮮明に記憶に残っている。


ふと見上げると、桜の蕾が少しだけ膨らんでいることに気付いた。
きっともうすぐ咲くんだろうと思うと、なんだか懐かしい気もした。


まだ寂しさは埋まらないし、悲しみも癒え切っていない。
それでも、心に刻まれた傷は優しい思い出と彼女からのラブレターに少しずつ塞がれていくようで、もう大丈夫だと思える。


ソメイヨシノにそっと触れ、瞼を閉じて耳を澄ませた。
まだ少しだけ冷たさを孕んだ風が、頬を撫でていく。


太陽の光が、木々の隙間から射し込んでいる。
そんなことを肌で感じながら、最愛の人の名前を囁いた。


「美乃……」


刹那、柔らかな風が吹いた。
聞こえるはずのない返事が聞こえて来る気がしたのは、気のせいなんだろうか。


ガラにもなことを思いながら目を開けて、ソメイヨシノから手を離した。


「まだ少し早かったな……。お前の誕生日に、また来るよ」


俺は微笑みながら告げて、ソメイヨシノに背を向けた。
そして、美乃との思い出の道をゆっくりと歩き出した――。