翌日はいつもよりも早く起きて、ランニングを熟した。
美乃がいなくなってからずっと、まるでモノクロのような色のない世界で生きてきた。


だけど、今日からは違う。
俺は、もう大丈夫だ。


俺の好きな朝の景色が、綺麗に色付いて見える。
今日はきっと、今までで一番気持ちのいい朝だ。


ランニングのあとはいつも以上に朝食を食べ、急いで職場に向かった。
現場にはまだ親方の姿しかなく、深呼吸をしてから力いっぱいの声で言葉を紡ぐ。


「おはようございますっ‼」


勢いよく顔を上げた親方の目は見開いていたけれど、親方はすぐにニカッと笑った。


「おうっ! やけにいい顔してんじゃねぇか!」

「はいっ!」

「その分だと、もう大丈夫みたいだな!」


ずっと心配してくれていた、親方。
胸いっぱいの感謝の気持ちを込めて、頭を深々と下げた。


「心配掛けて、すみませんでしたっ‼ 今日からまたお願いしますっ‼」

「当たり前だっ‼ 今まで、誰がお前の分まで動いてたと思ってんだ⁉ 今日からしっかり埋め合わせしてもらうからな! 覚悟しとけっ‼」

「はいっ‼」


笑顔で返事をし、親方に背を向けて作業の準備を始めた。


「やっと、泣けたみてぇだな……」

「へっ? なにか言いました?」

「お前だけ今日から毎日残業だ、って言ったんだよっ‼」


聞き取れなくて首を傾げると、親方は意地悪そうに笑ってから俺に背を向けた。
仕事を辞めた時も、また仕事に復帰した時も、親方はずっと俺のことを見ていてくれた。


俺のことを心から心配して本気で叱ってくれた親方の背中に、俺はもう一度頭を深く下げた――。