カードを読んだあと、ネックレスを着けた。
鎖骨の辺りで揺れたシルバーリングの感触はひんやりとしているけど、なんだか心地好い温もりを感じた。


ありがとう……。


リングをギュッと握り、心の中で美乃にお礼を言った。


「そんなもんいつ買いに行ったんだろうな。由加もなにも言ってなかったし」


不意に、信二が首を傾げた。
同じ疑問を感じて記憶を手繰り寄せた俺は、程なくしてふっと笑みを零した。


「きっと、外泊の日だよ。『映画が観たい』って言われて映画館の近くまで行ったんだけど、渋滞してて……。美乃が『ひとりで様子を見に行く』って言って車から降りたんだけど、なかなか戻って来なかったんだ」

「へぇ」

「俺が電話で『映画館まで迎えに行く』って言ったら、美乃は強引に電話を切ったんだけど……きっと、このためだったんだろうな」

「あいつもお前になにかしたかったんだよ」

「でも、俺がもっと早くに見つけてたら、どうするつもりだったんだ?」


その状況を想像して苦笑すると、信二が得意げに笑った。


「俺も同じ心配したんだけど、あいつ『それは絶対に大丈夫』って言ってたぞ! 『伊織はあんまり掃除しないみたいだったから、テレビの後ろなら見つからないよ! メッセージもそのつもりで書いてきたもん。だから、お兄ちゃんが教えてあげてね』って」


確かに、クリスマスプレゼントなのに、メッセージは過去形だった。
クリスマスはここで俺と過ごしたのに、これは美乃が亡くなるまで見つからない予定だったんだろう。


実際、俺は今まで知らなかった。
なんだか急におかしくなって、口元が緩んだ。


「ははっ……! やっぱり、美乃には一生敵わないな」


そう言った俺の心には、穏やかで優しい光が射し込んでいた――。