「……っ!」


目の前がぼやけて、視界いっぱいに広がる便箋の文字が滲んでいく。
堪える余地もなく瞬く間に溢れ出した熱のせいで、もうなにも見えない。


ああ……俺はなんて身勝手で、美乃はどこまで優しいんだ……。


「くっ…………っ、ふっ……っ!」


堰を切ったように溢れ出した涙は留まることを知らないのか、あとからあとから零れ落ちていく。
俺は信二がいることも忘れて、声も殺さずに泣いていた。


美乃が亡くなってから、一ヶ月半。
俺が初めて見せた涙だった。


失ったはずの感情は、まだちゃんと俺の中にあった。
俺の壊れた心は、彼女がそっと癒してくれた。


泣かないことで必死に現実から逃げていたのかもしれないけれど、美乃の死をやっと認められた気がした。
拭うことすらできない涙が涸れるまで、ただただ夢中で泣き続けた。


「あいつ……バカだよな……」


しばらくして掠れた声で呟くと、無言で窓の外を眺めていた信二がゆっくりと俺を見た。


「自分の方がつらいのに……俺のことなんか心配して……」

「そういう奴なんだ……。俺の自慢の妹だからな!」


信二は一度目を伏せ、明るくニカッと笑った。


「ああ……。いい女だよ……」


俺は、あの写真に写る純白のドレスを着た美乃に微笑み掛け、噛み締めるように続けた。
泣いたことですっきりしたのか、不思議と心が穏やかだった。


「俺の最高の女だ……」

「そうか……」


封筒を見つめていると、信二が「なぁ」と言って笑った。


「もうひとつ、お前の最高の女からの伝言だ」

「え……? 今度はなんだよ?」

「『テレビの後ろを見ろ!』ってさ」


泣き過ぎた顔で笑うと、信二は満面に笑みを浮かべた。