でもね……伊織は優しいから、私を忘れられないことでたくさん苦しむかもしれないよね。
もしかしたら、毎日泣いてるかもしれない……。


伊織はいつも、私のお願いを叶えてくれたよね。
だから、『私にできることはなにかな』って考えてみたけど、死んでいく私にできることなんてやっぱりなにもないのかな……。


だからね……もし伊織が、『苦しくて苦しくてもうどうしようもない』って思ってるのなら、私のことは忘れていいからね。

本当はちょっとだけつらいけど、伊織にはたくさんの愛情をもらったからもう充分です。
悲しんで前に進めないのなら、私のことは忘れてください。

“美乃は存在しなかった”
そう思ってくれていいから……。



だけど、これだけは知ってて。

私は、幸せだったよ。
もしいつか生まれ変わって長生きできたとしても、そこに伊織がいなければ私はきっと幸せにはなれない。
私が私じゃなければ伊織と出会えないのなら、私は生まれ変わってもまた久保美乃になりたい。

たとえ今よりも重い病気になったとしても、ね。


だから、もし……伊織が私のことを忘れないでいてくれたら、私はちょっとだけ期待してもいいかな?
伊織も、『私と出会えて幸せだったって思ってくれてる』って、思ってもいいよね?


そして、その時はあの約束も果たしてくれるかな?
あの桜の木の下ではもう無理だけど、きっと天国にもソメイヨシノはあると思うから……。

今度会えたら、そこでまた私の誕生日を祝ってくれる?
そう信じて、待ってみてもいいですか?
こんなの、やっぱり自分勝手かな……。



最後になったけど……。
私は伊織に愛されて本当に幸せだったから、伊織にはいっぱい感謝してるんだよ。

だから、私は最期までちゃんと笑顔でいるからね。
伊織もちゃんと前を向いて、笑って生きてください。

本当にありがとう。
精一杯の愛をこめて――。



From 美乃

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