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Dear 伊織
伊織がこの手紙を読む時、私はもうこの世にはいません。
だけど、これは遺書じゃないからね。
最愛のあなたに贈る、最初で最後のラブレターです。
私と出会った時のこと、まだちゃんと覚えてる?
病院の前で私とぶつかって、伊織はきっと最悪だと思ってたんだろうね。
だけど、私は心臓が止まるんじゃないかっていうくらい、すごくびっくりしたんだよ。
実は私、伊織のことをずっと前から知ってたから。
驚いた?
悔しいから秘密にしてたけど、毎朝走ってる伊織のことを、私はずっと見ていたの。
だから、伊織とぶつかった時、イヴを病院で過ごす不幸な私への神様からのプレゼントだと思ったんだ。
お兄ちゃんや由加さんと知り合いだったのはびっくりしたけど、そのおかげで伊織とまた会えたんだから感謝しないとね。
だって、私はまた伊織に会いたいと思ってたから。
たぶん、一目惚れでした。
走ってる伊織の姿を病室の窓から初めて見た時から、ずっと好きだったの。
最初は、遠くから見てるだけでよかった。
だけど……いつの間にか『会いたい』と思うようになって、あのイヴの日は伊織のことを少しでも近くで見たくて、病院を飛び出したんだよ。
ちょっと予定とは違ったけど、結果は大成功!
だって、伊織はひとりで私に会いに来てくれるようになったんだもん。
すごく嬉しかった。
毎日毎日、病室で伊織を待ってた。
私、本当に恋してたんだよ。
伊織が外出に付き添ってくれた時も、いつもウキウキしてた。
伊織に私の気持ちがバレないようにするのは、大変だったけどね……。
私の名前の由来の話をしたあと、伊織が会いに来てくれなくなってすごく悲しかった。
『ああ、伊織は私の気持ちに気付いたんだ……』って思ったの。
だから、私は伊織への気持ちを忘れることにして、もう絶対に恋はしないと決めた。
きっとその方がいいんだって、自分に言い聞かせて……。