「俺はただ、自分の気持ちを押し付けてただけで……。美乃は、幸せじゃなかったのかもしれない……」

「俺がなに言ったって、お前はどうせ納得しないんだろ?」


呆れたようにため息を零した信二は、カバンの中から封筒を出してテーブルの上に置いた。


「美乃がちゃんと幸せだったかどうかは、これを読んでから決めろ」


それを目にした直後、驚きのあまり言葉を失った。


【伊織へ】


美乃の字でそう書かれた封筒は、一瞬で俺の心を追い詰めた。


見たくないっ……!


正直、恐かったんだと思う。


美乃が亡くなってから、俺はまだ一度も泣いていない。
信二も広瀬も美乃の両親もずっと泣いていたのに、俺だけは一度も泣かなかった。


人は悲しみと絶望を同時に味わった時、泣けないのかもしれない。
告別式が終わった後、一滴の涙すら出ないことへの理由をぼんやりと考えながら、それならそれでいいと思っていた。


泣かないことで、美乃の死を認めなくて済む気がしていたから。


それなのに、今更こんなもの見せるなよ……!


「見たくない……」


封筒から視線を逸らすと、信二が小さなため息をついてからどこか悩ましげに笑った。


「美乃からの伝言だ」

「え……?」

「“ラブレター”、だとよ」


その言葉に目を大きく見開き、程なくして恐る恐る封筒に手を伸ばした。
ゆっくりと開いて中の便箋を取り出し、大きく深呼吸をしてから視線を走らせていく。