重苦しい沈黙が訪れる。
しばらくして、信二はカバンから一冊のノートを取り出した。


「これをお前に見てほしいんだ」

「昨日『渡したい』って言ってた物って、これのことか?」

「いや」


首を横に振った信二から、とりあえずノートを受け取った。
表紙には、見覚えのある綺麗な字で【One's darling】と書いてある。


「美乃、の……?」


震える声で尋ねると、信二は微笑みながら小さく頷いた。
俺は深呼吸をして、おもむろに最初のページを開いた。


そこには、一枚の写真が貼ってあった。


「……っ!」


俺、だ……。


水族館に行った時に、美乃が撮っていた写真だった。
次のページも、その次のページも、貼ってあるのは俺の写真ばかり。


カメラ目線のものは一枚もなかったけれど、知らない間に撮られたものも何枚もあった。
何ページ目かを捲ると、俺と美乃がふたりで写っている写真があった。


水槽の前に並んで立ち、幸せそうな顔をしている俺たち。
まだ半年ほど前のことなのに、もうずっと前のことのように思えた。


その次のページを捲ると、見覚えのない写真があった。
明らかに一枚だけ違うそれは、人が写っているみたいだけれど、遠目から撮ったのか画質が悪い。


写真をじっと見ていた俺の心臓が、程なくして跳ね上がった。
そこに写っているのも、俺だったから……。


だけど、それは最近のものじゃない。
もう、ずっと前の……恐らく、美乃と出会う前の俺だった。


たぶん、この写真は病室の窓から撮ったんだろう。
その写真には、随分前に捨てた服を着てランニングをしている俺が、小さく写っていた。


ただの偶然か、と考えるよりも先に、ピントがちゃんと俺に合わせてあることに気付いた。