訪れたわずかな沈黙を破ったのは、俺だった。


「夢をさ、見てたんだ……」

「……夢?」

「ああ、美乃の夢」


俺の声は穏やかで、たぶん笑みを浮かべている。
それが本当の笑顔なのか作り笑顔なのかは自分でもわからなかったけれど、俺はなにを思ったのか、さっきの夢のことをゆっくりと話し始めた。


「どこからが夢なのかわからないんだけどさ……色々なことを思い出してたら、いつの間にか寝てたんだ」


信二は、どこか悲しげに眉を寄せている。
自分でもどうしてこんな話をするのかはわからなかったけれど、なぜか口が止まらなかった。


「夢なのに、全部が鮮明でさ……。俺と美乃が付き合い始めた時のこととか、みんなで水族館に行った時のこととか……」


それは、泣きたくなるほどに切なくて愛おしい思い出。
思わず眉を寄せながら微笑み、信二の目を真っ直ぐ見つめた。


「お前らの結婚式のことも、夢の中に出てきたよ……。ああ、それから……あのウェディングドレスの写真を撮った時のことも」


棚の上に置いてある写真を見ると、そこに写る美乃は幸せそうに笑っている。
穏やかで優しい笑みに、胸の奥がキュッと締めつけられた。


「美乃とここで過ごした時のことも、夢に出てきた……。俺、あいつに怒られててさ……」


気が付くと、信二は悲しそうに微笑していたけれど、それでもまだ話をやめられなかった。
信二にこんなことを話してもどうしようもない、とわかっているのに……。


「最後に、一緒に公園に行ったことも……。それから……美乃が……亡くなった時の、ことも……。景色とか、話してたこととか、全部が鮮明でさ……。参ったよ……」


言葉を紡ぐ声が小さくなっていき、俺はようやく黙って俯いた。