「明日なら……」

「明日? だったら、今でもいいだろ?」

「明日、直接会って渡したいんだ。だから、それまで待ってくれ……」


どうしても明日だと言う信二に負けて、これ以上詮索するのを諦める。


「……で、明日のいつだよ?」

「お前、明日は仕事か?」

「休みだけど……」

「俺は明日も仕事なんだ。休日出勤でさ……。だから、夜でもいいか? 仕事終わったら、お前の家に行くから」

「わかった」

「たぶん、そんなに遅くならねぇと思うから……。また明日連絡するよ」

「ああ、じゃあな」

「おう!」


ようやく電話が終わったことに、安堵のため息を漏らした。
スマホテーブルに置くと一気に疲れが出て、ベッドに倒れ込んで瞼を閉じた。


心も体も疲れているはずなのに、不思議と眠気はない。
静かな部屋には時計の秒針が進む音が響き、外からは時々車やバイクの走る音が聞こえてくる。


こんな風に色々な音を聞いたのは、久しぶりな気がした。
最近はちっとも余裕がなくて、周りに目を向けることも耳を傾けることもなかったから……。


それにしても、“渡したい物”ってなんだ?


眠れそうにない俺は、天井の一点を見つめながらぼんやりと考えてみたけれど、なにも思い当たらない。
別に信二に預けた物もなければ、信二から物をもらう理由もないし、あの歯切れの悪い言い方も気になる。


まぁ、明日になればわかることなんだしな……。


俺は腑に落ちない自分自身にそう言い聞かせ、明日まで待つことにした――。